デジタルプレスキット

水平対向6気筒 エンジン
水平対向6気筒エンジン
1965, 911 2.0 litre-engine
356の後継モデルに搭載するエンジンの設計コンセプトを考案する際、その当初から明確であったのはエンジンをリアに搭載することでした。フェリー・ポルシェの甥、フェルディナント・ピエヒの指揮のもと、高回転化され、より洗練された回転特性を持った軸流式冷却ファンをもつ空冷水平対向6気筒SOHCエンジンが完成しました。カムシャフトはベベルシャフトやタイミングベルトではなく、チェーンによって駆動され、当初の排気量は2リッターでしたが、最大で2.7リッターまで拡大することが可能でした。当時のポルシェにはこの形式によるエンジンが、基本設計を変えることなく1998年まで生産され続けることや、排気量が3.8リッターまで拡大されることを予測できたエンジニアは誰もいませんでした。
空冷式の水平対向エンジンは993まで搭載されました。その後ポルシェのエンジニアはこのエンジンを水冷式に変更することを決断します。水冷式とすることで、これまでにない水準のパフォーマンスを発揮できるようになる点がメリットのひとつでした。ポルシェをこよなく愛してきたファンは当時、この変更に対して懐疑的でした。空冷式の水平対向エンジンを絶対と考える一部のファンの目には、911の歴史を放棄するものと映りました。しかし自動車業界のエキスパートはエンジンの水冷化は911のパッケージ全体に水を差すものではなく、むしろプラスの効果をもたらすと感じていました。導入以来、911シリーズは、その重要性は増すばかりでした。

901/911に搭載された水平対向6気筒エンジンは排気量2リッターで、最高出力は96kW(130PS)/6,100rpmでした。正確さを期すために、ここではポルシェ912についても簡単にご紹介します。912は1965年春に911と並んで導入されたパワーが抑えられたモデルで、排気量1.6リッターの最高出力66kW(90PS)を発生する356のエンジンが搭載され、装備も911よりシンプルなものとなっていました。ボディにはクーペとタルガの2種類が用意され、1969年夏まで生産されました。

モデルイヤー1967の初頭、118kW(160PS)/6,600rpmへとパワーアップした911 Sが登場します。ノーマルモデルの911は間もなく「911 L」、後に「911E」と呼ばれるようになりました。エンジニアはエンジンの耐久性を犠牲にすることなく、911 Sの出力を大幅に高めた点と、リッターあたりの出力を80PSまで強化した点に自信を深めました。1967年にはエンジンの出力を抑えた911 Tが登場します。最高出力81kW(110PS)/5,800rpmのこのモデルは、エントリーレベルの911として設計されたものでした。

1968年には米国市場向けに、排出ガス対策が施された初のエンジンが導入されました。ポルシェはその後、パフォーマンスの高さやドライビングコンフォートを損ねることなく、特に厳しいとされるカリフォルニア州をはじめとした、米国各州の排出ガス規制をすべてクリアし続けています。排出ガス対策は吸気側に排気ガスの一部を戻すEGRシステムとサーマルリアクターで行っていました。開発作業でもポルシェはヨーロッパの自動車メーカーとしては初めて、エミッションテストベンチを導入しました。

1968年秋、ポルシェは機械式フューエル・インジェクションを導入、これに伴い、911 Eには最高出力103kW(140PS)/6,500rpm、911 Sには125kW(170PS)のエンジンが搭載されました。いずれも将来的によりパワーアップすることを視野に入れて開発されたエンジンでした。開発にあたってはその当初から、世界で最も厳しい排出ガス規制をクリアできるエミッション特性が課題となりました。この水平対向6気筒エンジンにはナトリウムを封入したバルブが採用されていました。モータースポーツの舞台で培ったこの技術によって、長時間の全開走行時でも耐えられるエンジンが完成したのです。

排気量アップはパワーとトルクの増大を意味します。1969年にはまず2.2リッター、その2年後には2.4リッターまで拡大されました。911 Sを例にとると、最初の排気量アップによって最高出力は132kW(180PS)、その後140kW(190PS)にパワーが上がっています。1971年にはさらに厳しさを増した排出ガス規制をクリアするため、レギュラーガソリンで世界各地を走ることができるようにエンジンの圧縮比が下げられ、1972年にはK-ジェトロニックが初めて採用されています。K-ジェトロは採用当初、米国仕様車に装備されました。同じ年には新型の2.7リッター6気筒エンジンを搭載した、911カレラRSが導入されました。最高出力は154kW(210PS)/6,300rpm、最大トルクは255Nmでした。車両重量がきわめて軽く、標準仕様車ではわずか1,075kgでした。1973年に導入されたGモデルではすべてのモデルに2.7リッターエンジンが搭載され、無鉛レギュラーガソリンでの走行を可能とし、ポルシェはスポーツカーでも環境に優しくなれることを証明しました。1974年にはグループ3車両としてのホモロゲーション(公認)を取得するため、3リッターエンジン搭載の911カレラRSが111台生産されました。
1974年:911ターボ時代の幕開け
1974年にはもうひとつの伝説も生まれました。ターボチャージャーを搭載した初のプロダクションスポーツカー、911ターボをポルシェが導入しました。 より知りたい場合

1997年:ポルシェ初の水冷6気筒エンジン
1997年、996が導入され、911の歴史はいっそうの飛躍を遂げます。このモデルはボディのデザインが一新されたばかりでなく、水冷式の水平対向エンジンを搭載していました。 より知りたい場合

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